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2005-09-03-01-不謹慎で切実な喜び

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最終更新日付:2013/12/31 07:40:35


不謹慎で切実な喜び

2005 年 09 月 03 日

ときどき、メジャーなニュースチャネルに大手銀行や金融系機関のシステム障害が報道される。やれ「午前中取引が停止」だの、「頭取を始め経営陣が謝罪」だのと。

こんなニュースを聞くたび、僕は心からうれしくなる。まったく不謹慎な話だ。その障害の結果として不利益をこうむった利用者のことを考えるならまったく不謹慎な話である。しかし、僕は実際にそういった金融系のシステム開発の現場で働いている身として、表向きは残念そうな顔をしつつも、心のそこから自然に湧き上ってくる感情を隠すことはできない。それにはっきりとした理由があることもわかっている。今日はそれについて書いてみよう。

もちろん、僕は騒動を楽しんでいるわけではない。理由はひとつ、「問題が明るみに出た」ということ。これにつきる。内情を知らない方から見れば、障害を起こした企業やシステムには問題があり、障害の起きていないところには問題がない、と思うかもしれない。それは無理もない話だ。しかし実情は違う。これまで僕が見てきた限り、障害の起きたところとそうでないところにはそれほどの違いはない。

逆に言えば、僕たちはいつ新聞の1面を賑わす当事者になるか分からないほど作業品質の低い環境で仕事をしているのだ。たいていの現場は ISO9001 などの品質認証を受けているが、それとて間に合わせで監査当日だけ適合しているだけだ。スケジュールや予算に対しても「早くやれ、安くやれ」の一点張り。協力会社から要員を受け入れるときも買い叩くからロクな人間は入ってこないし、そもそも金融システム系の現場のスキル水準は下がる一方である。保守的な体質のために仕事内容も技術的に魅力がないし、さらには官僚主義的なためにいわゆる職人的な人間はすぐに離れていく。残るのは役所にいる小役人のようなサラリーマン技術者だけなのだ。言い過ぎと思われるかもしれないが、それが僕の目から見た金融系システム開発の現場である。

ここで、「早くやれ」という上からの指示に対して現場からもっともな反論をさせていただこう。それは暗黙に今のペースが遅いといっているのだろうが、一体なにと比べて遅いのか? 妥当なペースを提示できないくせに遅いと言うのは単なる不平でしかない。「安くやれ」という指示も同様だ。高いと言っているのだろうが、一体なにと比べて高いのか? 「納期・予算と比べて」というのは回答にならない。そう言われたらその納期・予算の妥当性に論点が移るだけである。ジェリー・ワインバーグがいみじくも指摘したとおり、システム開発やソフトウェア開発というものにはまともな比較の「ものさし」など存在しない。コンピューティングがもたらした変化というもの自体、それ抜きにしては想像もできないようなものだからだ。彼らは並べて比較するものも持たずに「遅い、高い」と言い募る。そもそも、彼らのいう「遅い、高い」は初っ端から交渉ごとでしかないのだ。だからどこまで行っても満足することはない。努力の結果、少しばかり安く早く仕上げたとしても、つけあがって「もっともっと」と言うに決まっている。そして作業品質は下がり、ある日システム障害となって表沙汰になるのだ。

一番有名になった、数年前のみずほ銀行の事件。あの日、職場でそのニュースを聞いたが、そのときなど仕事仲間たちと万歳三唱をせんばかりの盛り上がりだった。「いや〜、ああやって明るみに出ないと改善されないよねやっぱり!」 などいって休憩室の自販機でジュースを買って祝杯をあげたのを覚えている。同時に、「明日は我が身...」 などと言って皆で自嘲的に笑ったりもしたものだ。

表沙汰にならなければ、決して彼らは行動を変えようとはしない。だからこそ、システム障害が表沙汰になると僕は喜ぶのだ。それによって現場の実情が改善されるきっかけになりはしないかと、そんなささやかな望みをそこに感じるからだ。

最後に、僕たちの最大のジレンマを伝えておこう。僕たちは時々、互いにこんなことを言い合う。「現場がなんとかしちゃうからいけないんだよね...」 そうだ、その意味においては残念ながら僕たちは従犯なのだ。しかし、自分たちがいなくなっても、他の誰かがその汚い仕事をやるだろう。僕たちは一体どうすればいい? 一体いつになったら僕たちは胸を張って仕事をできるようになるのだろう?

 

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