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Zen of Palm/1-1

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最終更新日付:2014/01/01 00:00:00

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1-1.デザインの哲学

 

Palm OS のデザイン哲学の本質を見出すために、まずは以下のなぞかけを考えてみましょう。

なぞかけ1 Q:ゴリラはどうやったら飛び方を学べるだろう?

ヒント:ゴリラの本質を理解する必要があります

ゴリラと鷲の先天的な違いを考えてみて下さい。生まれ持った宿命によって、ゴリラはジャングルを支配し、鷲は空を支配します。では次に、ハンドヘルドとパーソナルコンピュータ(PC)の間の本質的な違いを考えてみましょう。

ハンドヘルドは単にデスクトップ PC やノート PC が小さくなったものではありません。ハンドヘルドは別モノなのです。これは基本的ですが理解するのは難しい問題です。もちろん、サイズなどの明白な相違点をいくつか見つけることはできますが、ハンドヘルドをデザインする際に決定的に重要であるにもかかわらず、見極めの難しい影響や使用パターンがそこにはあるのです。

 

PC の本質

PC の世界では、機能と価値には線型の相関関係があります。機能を増やすことはいつでも良いことです。Microsoft 社の CEO である Steve Ballmer 氏はこう表現しています。「ソフトウェアは毎年大きくなっていくものだ」※1

※1:Steve Ballmer,“Building a Platform on Web’s Technology,”interview by Karlin Lillington, San Jose Mercury News, 17 December 1999, Business section, morning final edition.

これが PC の考え方の本質です。たくさんの機能があることはいつだって良いことなのです。顧客はより多くの仕事をこなすことができますし、同時にではなくとも、これらの恩恵を得るためにハードウェアとソフトウェアの両方をアップグレードしなければなりません。

POINT:PC では、機能が多いほど良い。

この公式において忘れられているのは使い勝手です。それを疑問文にしてみましょう。 機能を増やす目的はなんなのでしょう? ユーザーがコンピュータを使って本当にしたいことはなんなのでしょうか? 使い方を学ぶのにどれくらい時間がかかって、学んだことを覚えているのはどれくらい大変でしょう? コンピュータは仕事の道具なのでしょうか、それとも生産性や実用性を忘れた別の何かなのでしょうか?

機能と使い勝手の関係という意味では、PC はスポーツ・ユーティリティ・ビークル(SUV)のようなものです。SUV は大きくてたくさんの人や物を運ぶことができます。重たい追加パーツだって大した不利益もなく追加できます。例えばルーフにスキー用のラックを追加したり、バックドアに自転車のキャリアをつけたり、後部座席をミニバーにしてみたり。キャンプに出掛けるつもりなら、1週間分の物資を購入して積んでおくことだってできます。いざとなったら小さなベッドでも仕立てて寝てしまうことさえできるのです! こういった付属物や可能性がなければ、本当にマイナスとなります。つまるところ、大きいことは良いことで、そうであるほどより多くを得ることになるのです。

※訳注

SUV は、日本でいう RV 車と呼ばれる類の自動車のことではないかと思われます。

同様に、PC の世界でも、機能を増やすことは良いこととされます。新たな回路がより多くの電力を吸い取っていきますが、あなたはその増加に気付きそうもありません。新しい部品を追加すれば PC はさらに重くなりますが、これもまた大した問題とはされないのです。

 

ハンドヘルドの本質

ハンドヘルドはまた別の生き物です。それはスポーツカーのようだと言っても良いでしょう。SUV はインディ500のレースに出場したり高速のカーチェイスで悪モノから逃走したりしない限りはナイスな車です。スポーツカーには重たいあれこれを載せるような余地はありません。それはもうマニアックなまでにスピードと操作性を追及するようなものであるべきなのです。

ハンドヘルドは素早く使えなければなりません。ハンドヘルドはユーザーを別の場所へ素早く連れていくという意味でスポーツカーのようなものです。ハンドヘルドの実際の技術的なスペックはユーザーにとっては大した興味を引きません。問題はいかに速くデバイスを取り出し、オープンし、適切な情報を探し、仕事を進めるかなのです。この一連の操作にどれだけ時間がかかるかを体感速度として扱うことができます。これはユーザーのハンドヘルドに対する主観的な体験を測る指標になります。路側帯に車が乗り上げてしまえば、ユーザーは車輪がどれだけ速く回転していようが気にしません。人々は何かをするためにハンドヘルドを使うのです ── それも今すぐに!

POINT:ハンドヘルドは体感速度において傑出する

体感速度の重要な前提条件は、整然として本質的な機能のセットです。56 種類もの使い方があるナイフを誰かさんに売りつけるのは結構なことですが、数ダースもの独立して見えるレバーをいじりまわさないとメインの刃やボトルオープナーを見つけられないようであれば、それはノベルティであって道具ではありません。同様に、ハンドヘルドのアプリケーションもやりたいことは何で、それがいかに早く習得できて簡単に使えるかを示さなければならないのです。

POINT:多過ぎる機能はユーザーの不満につながる。

さらに、ハンドヘルドは機能の追加にコストがかかります。いくつかのハードウェア機能は、マーケティング用のパンフレットではさぞかし最先端に見えることでしょうが、同時にバッテリーの持続時間を深刻に劣化させるに十分な電力消費を伴います。充電や電池交換なしに数日使えることがハンドヘルドに対する要求のひとつだとしたら、ハンドヘルドデザイナはすでに焦点を見誤っています。まとなりのない無節操な機能の追加は、ハンドヘルドを大きくて重いものにします。それは図 1.1 に示すような破滅のスパイラルに繋っていくのです。

POINT:ハンドヘルドは自由に持ち運べなければならない

図 1.1 過ぎたるは及ばざるがごとし

ハンドヘルドはただ持ち運べるというだけではいけません。ハンドヘルドはポケットや小物入れに入れられて、まったく気にせず持ち歩けるほど小さくて軽くなければいけないのです。もし持ち運ぶのが苦痛だったら、そのデバイスは取り残されて使ってもらえないでしょう。理想は、ユーザーが“着る”ことができる衣料品かアクセサリのようなものです。PC には ── ノートパソコンにさえも ── ハンドヘルドのような可搬性やパワーの制約はありません。

POINT:ハンドヘルドは身に付けられなければならない

これら全てはひとつのことを意味しています。ハンドヘルドへの機能追加には、(使い勝手が)減少を始める折り返し点があるということです。図 1.2 に示すように、たくさん詰め込み過ぎると使い勝手は悪化するのです。単なる機能の羅列ではなく、使い勝手こそがハンドヘルドの全てなのです。

POINT:ハンドヘルドはユーザーのためのものである

図 1.2 機能の数 vs. 使い勝手

 

使用パターンの逆転

ハンドヘルドと PC では、使い方のパターンさえも根本的に異なります。人々は PC やノートパソコンの前に腰を落ち着け、キーボードと大きな画面、そしてハードディスクを使って大量の情報を作ったり編集したりします。例えば、ユーザーはワープロや表計算のソフトを開いて 30分作業したりします。

人々は通常、ハンドヘルドを頻繁に、そして短時間ずつ使用します ── それは PC よりは腕時計の使い方に似ています。人々はハンドヘルドをポケットやブリーフケースから取り出して、情報の断片を確認したり更新したりします。例えば、電話番号を検索したりスケジュールを素早くチェックしたりします。図 1.3 に、ハンドヘルドとラップトップ PCの使用頻度と時間の対比を図示します。

POINT:ハンドヘルドは頻繁に、短時間使用される。

実際のところ、ハンドヘルドの使用パターンは PC のそれと完全に正反対なのです。そのため、製品デザインで同じアプローチをとることは根本的な誤りとなります。

図 1.3 正反対の使用パターン

 

別々のデザインアプローチ

ハンドヘルドをデザインする場合、PC をデザインする場合とは別のアプローチをとる必要があります。手のひらにフルデスクトップのアプリケーションを収めようとするのは、考えうる限り最悪の誤ちです。それは、最終的に破綻へと続く道なのです。

PC のアプローチ

PC の世界では、ユーザーは数多くの複雑な作業ができることを要求し、そして期待します。PC はあらゆることができるような道具なのです。結果として、通常アプリケーションは機能で満杯になります。アプリケーションは数多くのレアケースをできるだけカバーしようとします。この世界では機能追加のトレードオフが少ないため、顧客にたくさんの機能を提供できるほど良いとされるのです。

ハンドヘルドのアプローチ

ハンドヘルドの世界における実用主義は、異なるデザインアプローチを必要とします。力技に頼るよりも、賢いソリューションにフォーカスする必要があるのです。何が本当に問題なのかに焦点をあてるのです。機能を詰め込み過ぎたハンドヘルドアプリケーションは、結局ユーザーを失望させることになります。何を入れることが重要で、何を外すことが重要か、注意深く検討しなければなりません。このアプローチは挑戦的ですが、優美で有用なハンドヘルドアプリケーションが得られるならば努力する価値はあるでしょう。

誤解してはいけません。Palm 製品の顧客はパワーを求めています! ただし、彼らが求めているパワーとは仕事を終らせることのできる能力のことです。機能を追加しすぎて製品が扱いにくいものになってしまったら、本当のパワーを提供することはできません。

POINT:パワーとは仕事を終らせることのできる能力のこと

少数の選り抜きの機能で仕事をこなせるようにすれば、ユーザーの目的を曖昧にしてしまうような機能過多のアプリケーションよりもパワフルなものを作ったことになります。実用性や利便性はすなわち力であるということを忘れないで下さい。

 

なぞかけ1の答え

さぁ、最初のなぞかけに答える準備ができました。PC とハンドヘルドの本質的な違いを理解することができたのです。ハンドヘルドに次から次へと機能を追加すれば、その先には使い勝手の減少と顧客の不満が始まるポイントが待っています。また、人々は PC とハンドヘルドでは異なった使い方をします。PC では長く少ないセッション、ハンドヘルドでは多くの短いセッションです。このような短いセッションの中では、多過ぎる機能はハンドヘルドを扱いにくいものにします。ハンドヘルドでは、もっともシンプルでストレートなデザインがもっともパワフルなのです。

Q:ゴリラはどうやったら飛び方を学べるだろう?

A:鷲になるしかないでしょう。

飛び方を学ぶというのは、空の生き物 ── 飛び立ち、上昇し、急降下し、滑空し、着陸する生き物 ── の考え方を学ぶということです。このことは、ゴリラにココナッツ運びさせておくことを意味します。

鷲のように舞い上って Palm OS プラットフォーム向けの素晴らしい製品をデザインしたいのであれば、PC 向け製品のデザインで得た直感や知識、経験といったものを脇へ押しやってしまう必要があります。

激励の言葉:より良いハンドヘルドアプリケーションのデザイン方法を学んでしまえば、曖昧に定義された機能過多の PC アプリケーションから無駄を削ぎ落としてハンドヘルド上に飛び立させることが楽しくなるでしょう。鷲がゴリラの怪力や長い腕を欲しがることもあるかもしれませんが、それを手に入れることで大地から飛び立つことができなくなることがわかると思います。

 

 

 

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